フリーランスは、なぜプロレスラー「鈴木みのる」を目指すべきなのか
「推し活」とは、自分にとってイチオシの人やキャラクター(=推し)を、さまざまな形で応援する活動のことだ。世間一般では、若い人が好きなアイドルや声優に対して行っているイメージがある。しかし、若くない筆者はここ数年ずっと「推し活」をしている。
筆者の「推し」はアイドルではない。プロレスラーの鈴木みのるだ。
鈴木みのるはプロレスファンでは有名人だが、ファン以外ではわからない人もいるので簡単にどんなレスラーなのか説明しておく。
鈴木は1988年に新日本プロレスでデビューをし、その後、当時ブームとなった第二次UWFへ移籍。UWFが解散した後は、藤原組を経て総合格闘技団体パンクラスを旗上げ。2003年にプロレスに復帰して以降、新日本プロレスや全日本プロレス、NOAHなどのプロレス団体に上がって活躍しているフリーのプロレスラーだ。2015年には、原宿に自らプロデュースするアパレルショップ「Piledriver原宿」をオープンし、現在も社長としてTシャツのデザインや販売を手掛けている。鈴木みのる本人が時間がある時には店番をしており、ファンが集まるお店として認知されているのだ。
筆者は、鈴木が出ている試合を観戦したり、Piledriver原宿でTシャツを購入したりしている。実は自宅にあるTシャツのほとんどがPiledriverで買ったものだ。しかもお店では健康食品のサンクロレラも発売しており、筆者はネットでも買えるのに毎月原宿で購入している。そのお陰か、鈴木みのるがお店にいる時にサンクロレラを購入すると「いつも買ってくれているもんな」と声をかけられたこともある。これは立派な「推し活」だろう。
では、なぜ鈴木みのるが「推し」なのか?
それは彼が自分にとって「恩人」だからだ。コロナ禍が始まった直後の2020年3月、筆者はフリーライターとして窮地に立たされていた。クライアントから契約を切られてしまい、大幅な収入源となったのだ。打ち切りとなったのはコロナも関係あるが、一番は筆者の実力不足だ。悔しくて落ち込んでいた頃、鈴木みのるのインタビューをまとめた「ギラギラ幸福論黒の章」が発売されていた。帯には「悔しさを嚙みしめろ。「やれるか」じゃない、やるんだよ」と書いてあった。本を手に取って読んでみると
「あの日(新日本プロレスがニューヨークのMSGで試合を開催した日に鈴木みのるも出場していた)、第0のランブル終わって自分の部屋にさっさと帰ったんだよ。それでベッドで横になりながら新日本プロレスワールドで後の試合を見ていたけどメインのオカダ(カズチカ)対ジェイ(ホワイト)を観ながら「なんで俺は今部屋でこれを観ているんだ!」と。悔しくて悔しくて、「ああ練習が足りないからだ。俺がもっと強ければいいんだ。俺が今弱いからいけなんだ」ってなって、なぜか荷物をたたみ始めた。居ても立っても居られなくて帰り支度をを始めちゃって。それくらい悔しかった」(「ギラギラ幸福論黒の章」(徳間書店)より引用)
当時、大きな仕事が無くなって打ちひしがれていた筆者にすごく刺さった言葉だった。後書きにも東京ドーム大会でメインを取れなかった悔しさを素直に表し、「お前が弱いからいけないんだ」「この現実から目を背けるなよ」と自分に言い聞かせて、悔しさをため込んでトレーニングに励んだという。
この時の鈴木みのるの言葉と自分を重ね合わせ、悔しさを嚙みしめてライター復帰のために力を注いだ。半年以上新しいクライアントができなかったが、無事に見つかって現在はライター稼業をしている。あの時、鈴木の言葉がなければ今の筆者はなかった。
だから、筆者の「推し」は鈴木みのるなのだ。
フリーのプロレスラーとして活動している鈴木は、他にもフリーランスなら参考にしておきたいことをあちこちで述べている。なぜなら鈴木は国内にとどまらず海外でもオファーが来る売れっ子だからだ。海外のプロモーターに「なぜ俺なんだ?」と聞いたことがあるという。
すると「オリジナリティーがある」「長年プロレスを観てきたけどお前みたいな奴を見たことがない」という答えだったそうだ。しかし鈴木は別に珍しい技を使うわけでもなければ、顔にペイントをして試合をしているわけではない。使う技は基本的なものだけ。それでも「お前みたいな奴は見たことない」と言われるそうだ。
すべてシンプルなんだけど「それがいい」と言われるのは「鈴木みのる」が唯一無二のキャラクターだからだ。実はフリーランスになる前から「目標とする選手はいません。俺は「鈴木実」になりたいです」と答えていた。当時は18歳。物凄く生意気な新人だが、個性が求められるプロレスの世界で、唯一無二の存在を目指していたからこそデビューして30年以上経った現在でも第一線で活躍をし、世界中からオファーがくるのだろう。
それこそフリーランスにとって大切な要素ではないだろうか。近年はフリーランスで仕事する人が増えてきて競争も激しい。筆者のように仕事をなくすリスクは常に付きまとっている。だからこそ「この人でなければ」と思われれば、そうしたリスクは下がっていくどころかオファーはやってくるのではないだろうか。
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